「人間力」をどうとらえるか

 社会自立・職業自立に向けた支援を大きな柱とする本校では、卒業後にどう生きていくか、そのために今何をしなくてはいけないのかについて理解を深め、生徒の自立に向けた支援をさらに充実したものにしていかなければならない。本校では、これまでの研究の成果を踏まえ、「生きる力」をはぐくむ教育実践を根幹にした取り組みをさらに深めていくことが必要であると考え、「人間力」をテーマにした研究主題を設定した。「人間力」は、平成15年の内閣府「人間力戦略研究会報告書」では、「人間として、社会の中で、自立して力強く生きていくための総合的な力」と定義されている。本校では、主題にある「人間力」について、流山高等学園ではぐくんでいきたい「人間力」とはどのようなものなのか、この研究を通して明らかにしていきたいと考えている。「人間力」をテーマに取り組みを進めていくには、本校生徒の実態に即した流山高等学園の考える「人間力」を明らかにすることが必要である。これまでの研究成果から、「キャリア発達の視点」を踏まえた取り組みをさらに発展させ、本校の「キャリア教育」をより一層充実させて「生きる力」をはぐくむという観点から取り組みを進めた。

「キャリア教育」から「人間力」へ

 「生きる力」をはぐくむ教育実践をさらに深めていくことが必要であると考え、「人間力」を主題に置いた背景として、本校の成果や課題を就労に関わる部分について整理する。

 本校のこれまでの実践における成果面として、一つめは、98%という高い就職率があげられる。専門教科だけではなく、普通教科や「ST学習」にも力を入れており、それらが相互に作用し合うことで、生徒一人一人の個の力を育てていく支援の結実であると考えている。二つめは、離職しても再就職して就労生活を送っている卒業生の割合である就労率が、約9割と高いことがあげられる。これは、本校のこれまでの職業教育や関係機関との連携の成果であると考えている。

表Ⅶ-1卒業時に就労した事業所での定着率と就労率

卒業年度

就職率

定着率

離職の主な原因

就労率

H11年度

100%

52%

人間関係(2)、意欲(1)、自主退職(6)、欠勤(3)、その他(3)

86%

H12年度

100%

59%

人間関係(3)、意欲(2)、自主退職(6)スキル(1)、その他(2)

86%

H13年度

98%

73%

自主退職(2)、欠勤(4)、体調不良(2)、その他(1)

91%

H14年度

100%

73%

人間関係(2)意欲(1)、自主退職(1)、欠勤(6)、その他(1)

84%

H15年度

98%

73%

欠勤(4)、意欲(2)、対人トラブル(4)、疾病(2)

84%

H16年度

95%

86%

意欲(1)、自主退職(2)、欠勤(3)、態度(1)、その他(1)

89%

H17年度

98%

91%

人間関係(1)、作業意欲(2)、その他(2)

93%

H18年度

95%

98%

事業縮小(1)

93%

H19年度

98%

98%

その他(1)

95%

 














 本校の就労に関わる諸課題の一つを、卒業生の離職の主な原因から見ると、卒業時に就労した事業所での定着率と離職の原因を示した表(表Ⅶ-1)を見て分かる通り、離職の主な原因は「人間関係」と「労働意欲の減退」である。

 定着率について見ると、卒業年度が新しいほど高い定着率を示しているが、年度が古くなるに従い定着率が下がってきている。このこと自体は、古い年度ほど低い値になるのは至極当然のことと思われる。次に離職の主な原因に着目してみると、「人間関係」や「意欲の減退」が多くなっていることが分かり、この点を克服することが本校の課題の一つであると考えられる。

次に、本校の就労希望先における近年の傾向を見ると、製造業を希望する生徒が多いものの、福祉関係、事務補助作業、小売業への希望が増加する傾向が見られるとともに、当然のことながら、正社員での採用を希望する傾向が強くなってきている。全国的な傾向としては、国立特別支援教育総合研究所の平成20年「知的障害者の確かな就労を実現するための指導内容・方法に関する研究」によると、「製造・製作」が減少し、「サービス」、「販売」、「事務」などが増加し、就労先が多様化の傾向にある。

 以上のことから、次の3つのことが考えられ、また、このことはそのまま本校の課題にも通じるものである。
 ①コミュニケーション能力や実行力など、「人との関わりの中で仕事をする能力」が重視されてきている。

②自立する意欲を持ち続けることが大切である。

③社会の変化への対応や実践的な問題解決能力が求められている。

本校は、これまでの実践の結果から職業教育を通して「自立」のためのよりよい支援の実践を深め、高い就職率を教育の成果としてきたと言える。しかし、就労に関わる諸課題からは、就職しただけでは不十分で、コミュニケーション能力や実行力、自立への意欲、実践的な問題解決能力などが必要で、生きる力をはぐくむための支援をさらに充実させる必要があることが分かる。

 こうした本校の課題を克服するために、昨年度まで取り組んできた「キャリア教育」の実践をさらに発展的なものにしていこうという考えから「人間力」を主題に置いた取り組みを進めている。また、「人間力」を高める教育実践の取り組みは、これまでの本校の教育実践を総合的にまとめるものであると考えている。これまで本校では、専門教科のあり方を研究主題にした取り組み、普通教科を研究主題にした取り組み、総合的な学習の時間のあり方を研究主題にした取り組み、そして昨年度まで行っていたキャリア教育を研究主題にした取り組みを進めてきた。「人間力」を主題に置いた取り組みを進めることは、これまでの取り組みの成果を整理し、社会自立・職業自立に必要な生きる力として、生徒にどんな力を付けたいのかを明らかにしていくことである。


「キャリア教育」と「人間力」の関係