文部科学省委託事業研究報告書

 平成21年度 特別支援教育研究協力校
 平成22年度 千葉県特別支援教育総合推進事業

研究テーマ
「時代に合った新しい専門教科の取組」
 〜販売・流通の充実に向けて〜


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研究の概要

1 研究テーマ

(1)研究テーマ

「時代に合った新しい専門教科の取組」〜販売・流通の充実に向けて〜

(2)テーマ設定の理由
 平成15年度より実施の学習指導要領において、知的障害者が行う専門に関する教科として「流通・サービス」が導入され、主な学習内容として「商品管理」、「販売」、「清掃」、「事務」が示されている。「流通・サービス」系列の作業種目としては、「ビルクリーニング(清掃)」や「名刺印刷などの事務作業」を取り入れ、すでにいくつかの学校で実践が開始されているが、「商品管理」についての実際的な取組はまだ少ないのが現状である。「商品管理」に関係する実際的な授業内容を構築することは、専門教科「流通・サービス」の学習内容を増やすことにつながり、「流通・サービス」を実践する全国の特別支援学校に発信できるものになると考える。
 本校は、知的障害者を対象とし、職業に関する学科を設置する高等部のみの定員制の特別支援学校である。本校では、「社会自立・職業自立」に必要な知識・技能・態度の育成を目指した教育課程を編成し、「もの作り」を通して職業教育の充実を図ってきた。しかし、販売活動については、従来から行われている地域での対面式の販売活動にとどまり、流通の仕組みを取り入れた学習活動が整備されてきたとは言えない。また、生徒の卒業後の就職先は、流通業やサービス業といった職域が増加傾向にある。このことから、教育課程編成において、専門教科である「流通・サービス」をさらに充実させていく必要が急務である。
 そこで、本研究では、「生産物の一括管理のシステム」を研究内容の一つとして取り上げることにした。バーコードによる生産物の管理やピッキング作業など、「商品管理」に焦点を当て、流通に関するより実際的な知識や技術が得られるような授業内容を探っていく。職業教育の実践であることを踏まえ、職業自立を支援する内容のものにしていきたいと考えている。卒業後の就労先では、より実際的な商品管理に必要な知識や技術が求められている。そのため、学習内容においても生産物の管理方法や技術について確立しなければならない。また、卒業生の新たな職場を開拓するためにも学習内容を充実させる必要がある。
 主な研究内容は、企業視察や「流通・サービス」実践校の視察などを通して情報収集を行うことと、商品管理システムを活用した学習内容・指導方法を考え、実践に向けた準備を整え、専門教科の授業で実践していくことである。実際の取組では、バーコードを導入した生産物管理の新しいシステム作りを行い、バーコードによる生産物の管理や調査、ピッキング作業などの活動を行う。作業工程等を分析し、専門教科の実践として整理されているか、職業自立を支援する活動内容になっているかなどについて明らかにしていきたい。さらに、新しい販売活動として「インターネット販売」を考えている。「商品管理・販売」に関する学習活動を組み立てていく中で、インターネット上に店舗を立ち上げて生産物を販売する取組について可能かどうか探っていきたい。
 今回の実践研究を通して、「もの作り」の取組に加え、流通についての知識・技能を深めることができる新たな教育課程を提案し、職業教育のさらなる充実に向けて検討していきたいと考え本テーマを設定した。

2 研究内容

(1)研究の目的
 本校では、これまで、研究テーマとして「キャリア教育」についての取組を進めてきた。職業教育を実践している本校は、教育内容そのものが「キャリア教育」であると言え、「キャリア発達」のために育成すべき能力に焦点をあてて実践的な研究を進めるとともに、社会自立・職業自立に必要な力を育てるための教科指導について、「キャリア発達の視点」から実践を深めていくことを目指して研究を積み重ねてきた。研究結果からは、授業を構成していく中で「キャリア発達に関わる諸能力」との関連を明らかにすることで、指導者の意識改革が起こり、授業展開の工夫や支援方法への工夫・改善へとつながることが分かった。
 こうした研究成果から、従来の知的障害児教育における職業教育をさらにキャリア発達の視点から深化させることにより、生徒のニーズに応じた職業教育を進めることにつながると考えることができる。そのためには、職業に関する専門教科の取組をさらに発展させていくことが必要であると考えられる。これまでの取組をさらに発展させた新しい形の職業教育を進めることは、本校の「キャリア教育」を充実させるだけではなく、自立や就労を目指す他の特別支援学校のモデル的役割を果たすものであると考える。
 本校の教育課程は、教科別の指導・領域別の指導・総合的な学習の時間の3つによって編成されている。教科別の指導では、「専門教科」と「普通教科」とに分け、午前中は主に専門教科として各コースの実習を行い、午後は普通教科の授業を行っている。専門教科での授業時数は週15時間にもなり、活動の中心となっている。このことからも分かる通り、本校では「もの作り」を中心とした職業教育に取り組み、もの作りを通して「社会自立・職業自立」を目指してきた。専門教科で行っている品質の高い製品を生産する取組は、他の特別支援学校の見本になるほどである。しかし、販売活動については「対面販売」にとどまり、流通の仕組みを取り入れた学習活動が整備されてきたとは言えない。また、生徒の卒業後の就職先は、流通業やサービス業といった職域が増加傾向にある。このことから、教育課程編成において、専門教科である「流通・サービス」をさらに充実させていく必要が急務である。つまり、時代に合った新しい仕組みを実践し学ぶことによって、今後の特別支援学校の教育課程を考えていくことが重要な課題であり、今後は製品を生産した後の取組について、新しい試みを進めていくことが必要である。そこで、本研究では、「生産物の一括管理のシステム」を研究内容の一つとして取り上げることにした。今までにない新しい取組を進めることで生産後の活動が充実し、これまでの生産活動にも相乗効果をもたらすと考えている。今回の実践研究を通して、「もの作り」の取組に加え、流通についての知識・技能を深めることができる新たな教育課程を提案し、職業教育とキャリア教育のさらなる充実に向けて検討していきたい。

(2)研究仮説
 本研究では、「生産物の一括管理のシステム」を研究内容の一つとして取り上げる。卒業後の就労先では、より実際的な商品管理に必要な知識や技術が求められている。そのため、学習内容においても生産物の管理方法や技術について確立しなければならない。まず、商品管理システムの構築を図りたい。これまでの活動でも商品管理は行ってきたが、より社会一般的なシステムの導入を考え、バーコードによる商品管理システムの構築を探っていく。生産物の搬入から出荷までの一連の流れを学び、バーコードによる生産物の整理やピッキング作業、運搬などを行うことで、流通に関するより実際的な知識や技術が得られるものと考える。また、生産物を一括管理することは新しい販売方法の確立につながるものであると考える。バーコードでの管理システムを構築することで、生産物の価格の決定や原価計算を行うことが可能になり、販売計画や経理などの活動が行える。バーコード管理を基盤にした販売計画や調査・企画、経理、広報、接客など、必要に応じて部門を作り、生徒一人一人が役割を持ちながら作業を進めていく体制を整えていくことが可能であると考える。このことは、「インターネット販売」など販路の拡大につながるだけではなく、経営体験の取組を実践することでもある。バーコードでの生産物一括管理システムを構築する取組を行うことで、流通についての知識・技能を深める新たな教育課程作りに向けた具体的な学習内容を整理していくことができ、新しい販売方法についての可能性を探っていくことができると考える。
 今回の取組では、本校だけではなく千葉県内の特別支援学校に協力を要請し、他校の生産物についてもバーコードでの生産物一括管理システムを構築する計画である。管理・情報交換のネットワークを構築することで、本校と同様の相乗効果を県内の特別支援学校と共有することができ、流通の仕組みについての学習も共有することができる。また、地域の産業を活かした生産物や各学校独自の自慢できる生産物を集めて県内の学校が協力することで、地域のPRや特色ある学校作りにつながると考える。生産物に対する情報交換から、品質の向上も期待できる。このことは、千葉県における職業教育の進歩と「キャリア教育」の浸透につながると考える。


3 研究期間

 平成21年4月〜平成23年3月 (2年間)

4 研究経過

(1)平成21年度
研究初年度における主な取組は、「商品管理・販売」に関する学習活動の実践に向けた準備である。
企業視察や「流通・サービス」実践校の視察などを通して情報収集を行うことと、商品管理システムを活用した学習内容・指導方法を考え、活動のねらいを明らかにすることをめざした。年度後半にプレ授業を実施して授業の評価を行い、修正を加えながら具体的な実践に向けた準備を進めた。主な取組内容は以下の通りである。

@研究運営協議会委員設定
研究を進めるにあたり、学識経験者、関係機関、県教委、学校代表からなる研究運営協議会を組織し、指導助言を受けながら研究を進めた。
A企業や学校視察による情報収集
企業を訪問し、実際の物流現場や、「流通・サービス」に関する授業を行う他校の視察などを通して情報収集を行った。
B「商品管理・販売」に関する学習活動の構想。
C「商品管理システム」の構築。
D「商品管理・販売」に関する活動のねらい・学習の展開を明らかにする。
Eプレ授業の実践

(2)平成22年度
今年度(平成22年度)から本校は第二キャンパスを開設し、これに合わせて既存の「農業」「工業」「家政」の3学科に加え、「流通・サービス」「福祉」に関する学科を新設した。そのため、「商品管理・販売」に関する学習活動については、「福祉・流通サービス科、流通サービスコース」の専門実習で、より実践的な研究を進めていくことになった。これまで構想してきたものを実践でどう活かしていくか、活動のねらいや評価は的確か、といったことについて整理を進め、実践を通して指導内容、指導方法、教材・教具の開発を進めていくことが今年度の主な研究内容である。主な取組内容は以下の通りである。
@「商品管理」の授業を専門教科の取組である「流通サービスコース」で実践し、実際の授業内容や教材・教具を明らかにすることで、成果や課題を整理する。
A授業参観、研究授業を行う。
B「商品管理」の授業について、課題点などを整理し改善を図る。
C学習の評価方法と内容について整理を進める。
Dインターネット販売の可能性について探る。



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