普通科高校におけるキャリア教育の一層の進展のために

                             校 長  齊 藤 孝

 ここでは,キャリア教育のこれまでの動きの中から,その重要性について述べることにより,普通科高校におけるキャリア学習の意義を確認したい。
1 キャリア教育とは
 「キャリア」の単語は,日本語では,キャリア官僚やエイズ保菌者の意味でキャリア(CARRIER)などど使用され,職業と関係していないように思われていることが多い。キャリア(CAREER)は経験・経歴などの意味を持ちまた,航跡や車などが通ったあとの轍(わだち)などの意味もあるようである。したがってキャリアは、職業と係わる経験・経歴などと理解するのが最も適当と考えられる。
 「キャリア教育推進の手引」では,キャリアとは,「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くこととの関係付けや価値付けの累積」と定義され,キャリア発達とは「生涯にわたる変化の過程であり,人が環境に適応する能力を獲得していく過程である。その中で,キャリア発達とは,「自己の知的,身体的,情緒的,社会的な特徴を一人一人の生き方として統合していく過程である。」と定義されている。
 この言葉が,文部科学行政関連の審議会報告等で初めて登場したのは,平成11年12月の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」である。この答申では,「小学校段階から発達段階に応じてキャリア教育を実施する必要がある」と提言されました。
 平成15年6月,「若者自立・挑戦戦略会議」,平成16年1月の報告書では,「初等中等教育におけるキャリア教育の推進」が提言された。また,小・中・高等学校を通じ組織的・系統的なキャリア教育を行う「キャリア教育推進地域指定事業」が実施されている。平成17年度には,「キャリア教育実践プロジェクト」などの施策が実施されている。
 平成18年度に,中学校の職場体験「キャリア・スタート・ウィーク」がはじめられ,一層の推進を図られた。また,そのような状況に対し,「キャリア教育推進の手引」が作成されました。学校教育指導指針のなかでも、「キャリア教育」は主要な柱の一つに位置づけられている。
2 キャリア教育で育成される能力
 「人生は進路に関する選択と適応の連鎖によって形成される」ことから,4領域(国立教育政策研究所の調査研究報告による)が育成されるべきものとされている。
 人間関係能力−他人の個性を尊重し,自己の個性を発揮しながら,人々とコミュ  ニケーションを図り,協力・共同して物事に取り組む力を育成させる。
 具体的能力としては,自他を理解する能力,コミュニケーション能力などがある。
将来設計能力−夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え,社会の現実を踏ま  えながら,前向きに自己の将来を設計する能力を育成させる。
 具体的能力としては,役割把握・認識能力,計画実行能力などがある。
情報活用能力−学ぶこと,働くことの意義や役割及びその多様性を活用して,自  己の進路や生き方の選択に生かす能力を育成させる。
 具体的能力としては,情報収集・探索能力,職業理解能力などがある。
意志決定能力−自らの意志と責任でよりよい選択・決定を行うとともに,その過  程での課題や葛藤に積極的に取り組み,克服する能力を育成させる。
 具体的能力としては,選択能力,課題解決能力などがある。
これら4領域の能力を伸長することが必要である。
3 今までの進路指導からのキャリア教育へ
 学校での進路指導の目的は,自己にふさわしい進路先を選び,そこに適応し,望ましい自己実現をはかることのできる能力を育成することである。そのため「進路適性の理解と進路情報の活用,望ましい職業観・勤労観の確立,主体的な進路の選択決定と将来設計など」の指導を徹底させる必要がある。
しかし,一般的に高校生の多くは,将来の自分の在り方まで考慮した進路意識を成長させることができていない。それは中学校から高校へ進学する場合,理想とする仕事へ近づくために進路決定をしたわけではないからである。高校卒業時での進路選択も高校入学時と同様に,よくわからないままでも何とかなる,という感覚が残ってしまう。入れるところへ入れればよい,先のことは後で考える,ことになる。
 しかし,生徒がこれから生きていく社会はますます国際化や情報化の進展,経済的な不透明感の加速が考えられる。そのような社会にあって着実に生きるには,職業的な自立を遂げた後も,常に自己実現を目指して成長し続けることが必要である。そのためには,上記の能力すなわち,コミュニケーション能力,役割把握・認識能力,計画実行能力や情報収集・探索能力,職業理解能力,問題解決能力,系統化された知識や柔軟な感性などを,全ての教育活動を通じて身に付けなければならない。
 いわゆるいままでの進路指導は出口指導に中心がおかれ,3年生での大学選択指導や就社指導が中心となりがちとなっている。進路指導の用語は中・高等学校だけで使われている。キャリア教育は,教育活動のあらゆる場面で個々の生徒の様々な問題や課題に関わっている。出口指導はその最終的な形態にすぎないと考えられる。
 キャリア教育は,言葉だけの問題でなく,ニートやフリータの社会問題等を背景として,これからの生徒の「進路に係る指導」を,どのように総合的に実施していくかが問われている。
以上,少し難しい内容となったが、生きること,働くこと,学ぶことの意味をよく理解することは豊かな人生を送るための必須事項である。