○ 簡単な自己紹介
私は,現在,さいたま地方裁判所で裁判官をしています。簡単に経歴について触れますと,私は平成13年に安房高校を卒業して一橋大学法学部に入学し,平成15年に司法試験に合格し,平成17年に大学を卒業して司法研修所に入り,1年半の修習を経て平成18年10月から裁判官としての仕事をしています。
○ 安房高校時代について
私は中学校くらいから,法律家という仕事を目標にしていましたので,高校時代から勉学に励んでいました。安房高校は地域の進学校というだけあって,周りに優秀な仲間も多いため,相談したり競い合ったりすることで勉強にも自然と力が入ったものでした。また,私は法学部を目指していたので文系を選択したのですが,理系も好きだったこともあって物理部に所属していました。部活の仲間たちと放課後はくだらないことも含め,いろいろなことをして親交を深め,文化祭前は発表に向けて真剣に研究に取り組みました。
○ 大学時代について
司法試験という目標があったため,法学研究系のサークルに所属し,大学1年の秋頃から予備校に通うなどして勉強を開始しました。法律は難解なところも多いですが,正義や公平とは何か,といったことを考えることが好きな私は結構相性が良いみたいで,それほど苦になりませんでした。勉強の甲斐あって,大学3年時に初受験で司法試験に合格することが出来ました。それと,大学3年からは会社法・証券取引法ゼミを選択し,M&A,株式などについて勉強していました。せっかく勉強したので,実際に株取引や外貨取引もやってみましたが,経済について考える習慣がつくという意味では良かったかと思います(当然,損失を被るリスクについて覚悟もしなければなりませんが。)。大学の仲間は,同じ法曹業界に進む人,官僚になる人,金融・製造その他民間企業に就職する人など様々ですが,今でも時々情報交換をして刺激を受けています。
○ 修習時代について
司法修習の制度はここ数年変化が激しいのですが,私のころは,全体が1年半で,始めの3か月が司法研修所での前期集合修習,その後3か月ずつ民事裁判,刑事裁判,検察,弁護という4か所の実務を通じて研さんを積む実務修習があり,最後に法律家となるための最後の関門である2回試験(司法試験が1回目で,この試験が2回目の試験という意味です。)に向けて勉強する後期集合修習があるという流れでした。司法試験に合格するのには時間がかかるのが当たり前ということで,私の感覚ですが,同期の修習生の平均年齢は30歳,人数として多数を占めているのが26歳くらいに感じました。周りは皆年上ですので戸惑うこともありましたが,気後れすることのないように努めていました。修習生という身分は不思議なもので,非常に知識が乏しく仕事のできない存在であるにも関わらず,勉強していれば給料がもらえ,行く先々で丁重に扱われ熱心にいろいろなことを教えてもらい,普通では体験できない様々な体験(倒産したゴルフ場の見学,スリを捜査する刑事に同行,死体の解剖の立会など)もさせてもらうことができました。また,自分の作成した判決起案などが,部分的に修正されて実際に使われることもあります。このような経験を通じて,責任感を強く実感しました。
○ 今の仕事について
裁判官というと,刑事のイメージが強いかもしれませんが,私は基本的に民事の裁判を担当しています(月に2回程度は逮捕状などの令状を出す刑事の仕事もしています。)。裁判官になってから5年が経過するまでは,単独で判決を書くことができないなどの制約がありますので,合議事件で3人の合議体の一角となって仕事をすることが主となります。といっても,実際には合議事件の主任裁判官として,事件について合議体の中で一番詳しく検討し,合議する際は合議を主宰し,判決を書くときはたたき台となる判決案を作成するなど,合議体の中で最も合議事件に真剣に向き合うことになります。通常,合議事件となるのは難しい事件が多いにも関わらず,裁判官になりたての人に合議事件の主任を担当させるのは,裁判所が人を育てることに熱心なことの表れだと感じています。また,裁判所というのは非常に平等なところで,合議の際には裁判官がそれぞれ平等に発言権を持ち,理屈がしっかりしていれば一番若い裁判官が年配二人の裁判官の意見を変えさせることも可能です。非常に風通しがよくて,仕事がしやすい環境です。
一方,裁判官の持っている権限は強く,(控訴などの異議を述べる手段で変更される可能性はありますが)人を一定期間拘束することや,住居から出て行けと命じたりお金を支払えと命じたりすることができてしまいますので,誤ることがないようにできるだけ注意をしています。そのような観点からしても,勉強の日々が続きます。でも,それだけでは息が詰まりますので,多くの裁判官は打ち込める趣味を持っています。何事もメリハリが大事なのではないでしょうか。
○ 高校時代から通じることについて
私の経験からすると,具体的な目標を持っているということは強みになると思います。かといって,それだけを見て視野が狭くなってしまうのも得策ではなく,自分の可能性を広げられるようにしておくと良いと思います。思い返すと私は安房高校時代からそのような行動をそれほど意識的ではありませんでしたが,とってきたと思いますし,安房高校にはそのようにできる土台があると思います。
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